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サトウキビ新品種「はるのおうぎ」の特性と利用

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最終更新日:2019年10月10日

サトウキビ新品種「はるのおうぎ」の特性と利用

2019年10月

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター 作物開発利用研究領域
主任研究員 服部 太一朗

【要約】

 「はるのおうぎ」は、茎数が非常に多く、萌芽性に優れる株出し多収なサトウキビ新品種である。耐倒伏性に優れるため機械収穫しやすく、また、機械収穫後の萌芽も良好である。既存の主要品種「農林8号」の株出し単収の減少が問題となっている鹿児島県熊毛地域(種子島)では、「はるのおうぎ」の普及による株出し単収の増加とともに、株出し継続年数の増加や、それによる植え替え頻度の低減(省力化)にも期待が寄せられている。

はじめに

 鹿児島県くま地域の種子島は、国内の主要なサトウキビ生産地としては最北に位置する。奄美地域や沖縄県に比べて気温が低く、サトウキビの生育期間も短いため糖度水準は低い。しかし、土壌の保水性に優れるため茎伸長に有利であり、収量水準は高かった。すなわち、種子島といえば、「糖度は低いが多収な地域」として位置付けられていた。

 しかし、種子島では多収が続いていた2005/06〜2009/10年期以降、単収が減少傾向にある(図1)。栽培農家戸数はピーク時の2004/05年期から2018/19年期の14年間でほぼ半減した(図2−a)。収穫面積も、多収で収益性が良かった時期は増加基調にあったものの、単収が減少傾向に転じてからはその後の回復が見られず、不作が続いた直近の5年間では毎年100ヘクタール以上のペースで急減している(図2−b)。1戸当たり収穫面積は同じく14年間で約1.7倍となり、限られた担い手が機械化、大規模化により生産を維持している状況がうかがえる。
 
 
 

 種子島では長期にわたって「農林8号」が主要品種であり、2004/05年期には収穫面積のほぼ全て(98.1%)を占めていた(図3)。その後、早期高糖性の「農林22号」の普及に伴って「農林8号」の割合は漸減したものの、2012/13年期まで島内の約8割以上で栽培されてきた。しかし、経営の大規模化や収穫の機械化などが進行していく中で、「農林8号」を取り巻く生産環境は大きく変化した。すなわち、収穫と植え付けが重なり初春の作業競合が著しくなることによる株出し管理の遅れや株出しでのマルチ未設置の常態化、機械収穫時の株引き抜きによる損傷や欠株の増加、新植する余力がないためやむを得ず株出しを続けてしまうじょうの増加など、「農林8号」の萌芽不良を招き、株出し単収の減少を助長する状況が生じている。そのため、近年では「農林18号」の株出し多収性が再評価され、それまで2〜3%台で推移していた同品種の収穫面積が急増している(図3)。しかし、「農林18号」は旺盛な茎伸長が要因で倒伏が発生しやすく、収穫時の作業性に劣る点が指摘されている。このような種子島の厳しい状況を背景として、株出し多収かつ機械収穫しやすい新たな品種に対するニーズはこれまでになく高まっていた。
 

 他方、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構という」)九州沖縄農業研究センター(以下「九沖農研」という)では、国内のサトウキビの単収が減少傾向を示すようになる以前から、株出しで安定多収となる品種開発の重要性を指摘し、その実現に向けてサトウキビ野生種(Saccharum spontaneum L.)を活用した育種に取り組んできた。そして、最近、種子島における株出しでの収量性に極めて優れる「はるのおうぎ」を育成し、共同育成者である国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(以下「国際農研」という)と品種登録出願した。

 「はるのおうぎ」には、生産量が低迷している種子島において、生産回復の起爆剤として強い期待が寄せられている。本稿では、「はるのおうぎ」の本格普及に向けて、その適切な利用を促進するため、同品種の来歴、諸特性および栽培上の注意点などについて紹介する。

1.品種の来歴と特徴

(1)来歴

 「はるのおうぎ」の育成においては、株出し多収性と高糖性を育種目標とした。その実現に向けて、多回株出しでの収量性に極めて優れる飼料用サトウキビ品種「KRFo93-1」を母本(種子親)、早期高糖で一茎重が大きい製糖用品種「NiN24」を父本(花粉親)として選定した(図4)。「はるのおうぎ」の母本として利用した「KRFo93-1」は、わが国でもかつて広く栽培された世界的に有名な製糖用品種「NCo310」(南アフリカ糖業試験所育成)と、インドネシア由来のサトウキビ野生種「Glagah Kloet」の種間交雑により作出された種間雑種であり、野生種の特徴である優れた株出し能力などを製糖用品種に導入する取り組みの先駆けであった。「KRFo93-1」を製糖用品種に再交配して作出された「はるのおうぎ」は、野生種からわずか2世代で実用化に至った、世界的にもまれな事例である。
 
 

 交配は2008年12月に、当時、推進されていた農林水産省による「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発(地域バイオマスプロ)」における「1系:国産バイオマス燃料への利用に向けた資源作物の育成と低コスト栽培技術の開発(課題番号1421)」の枠組みの中で、農研機構と国際農研が共同で実施した。2009年度に交配種子を九沖農研種子島研究拠点(育成地)でしゅした後、2010年度から選抜試験を開始した。2015年度以降は育成地での生産力検定に供試するとともに、鹿児島県農業開発総合センターおよび沖縄県農業研究センターによる系統適応性検定試験や黒穂病抵抗性の特性検定試験に供試した。これらの試験による評価を経て、2017年度からは熊毛・奄美地域を対象として、2018年度からは沖縄県全域も対象に加えて、各地で奨励品種決定調査が開始された。その結果、熊毛地域での成績が群を抜いて良好であったことから、他の地域に先んじて2019年3月に出願名「はるのおうぎ」として農研機構と国際農研が共同で品種登録出願を行い、2019年8月に熊毛地域の奨励品種に選定された。なお、奄美地域および沖縄県全域では、奨励品種決定調査を継続中である(2019年10月時点)。

 以上の「はるのおうぎ」の選抜過程では、株出し多収性を強化するための二つの試みがなされた。一つ目の試みは、最初の選抜となる実生選抜において、種間交雑や戻し交雑に由来する集団のみを対象として、別途、独自の評価を実施したことである。具体的には、通常の実生選抜では評価しない萌芽の出現状況(数、大きさ、出現位置)や、根張り程度に関連する項目なども評価するとともに、それまで重視していた茎の太さよりも茎の多さに重点を置いて選抜した。二つ目の試みは、株出し多収品種へのニーズが高まることを予測し2次選抜という早い段階から株出しで評価するように選抜過程の一部を改変したことである。新植での生育が特段優れていないため従来であれば見過ごされる可能性があった系統についても、早期に株出し能力を評価することで適切に選抜することが可能となった。「はるのおうぎ」の育成に当たっては、野生種由来の有用形質の導入の成否と、実際に株出しした場合の生育について、選抜の極初期段階から検証したことが功を奏したと考えられる。

(2)命名の由来

 出願名である「はるのおうぎ」は、農林水産省による品種名称アイデア募集(募集期間2019年2月6日〜15日)に応募された約300件(重複を含む)を基に、育成者および関係者による協議を経て決定した。育成過程での系統番号(KY10-1380)の漢数字標記「一、三、八、〇」の組み合わせにより「春」という漢字が出来ること、株出しにおいて初春の萌芽性に優れ、初期の茎数が多く草姿が扇を連想させること(写真1)とともに、当面の普及対象地域である種子島のサトウキビ産業に明るい春をもたらしてほしいという願いを込めて「はるのおうぎ」とした。

 

(3)形態および生態的特性

 熊毛地域の既存品種のうち、形態が比較的類似する品種としては「農林8号」と「農林22号」が挙げられるが、「はるのおうぎ」の草型は“やや立葉”、葉群の疎密は“密”、葉身の緑色は“かなり濃”であり、「農林8号」や「農林22号」に比べて緑色の濃い葉身がやや垂れながら密集しているため、比較的識別しやすい(写真2)。また、葉鞘包合部下面の葉耳の形は“葉耳欠失型”であり(写真3)、「農林8号」および「農林22号」と識別できるほか、葉鞘の毛群もうぐんが“無または極少”であるため、毛群のある「農林22号」と識別できる。原料茎長は「農林8号」と同程度かやや短いが、原料茎径は「農林8号」より細い(写真4)。一方で、原料茎数は多く、特に熊毛地域の株出しでは非常に多くなる。
 
 
 
 

 

 「はるのおうぎ」の新植時の発芽性は“高”であり、熊毛地域の既存品種「農林8号」「農林22号」「農林18号」と同程度であるが、株出し時の萌芽性は“極高”であり、これらの既存品種より優れる。育成地の試験結果では、手刈り収穫後だけでなく、機械収穫後の株出し萌芽も良好であった(図5)。糖分含量は「農林8号」と同程度の“高”であるが、登熟の早晩性は“かなり早”で「農林8号」より登熟がやや早い。耐倒伏性は“強”であり同地域の既存品種より優れ、収穫しやすい。他方、脱葉性は“難”であり、“やや難”の「農林18号」より脱葉しにくい。黒穂病抵抗性は、特性検定の結果では“極弱”の「NCo310」より常に発病率が低かったものの、「農林8号」より発病率が高く、“弱”と判定されたため注意が必要である(表1)。
 
 


(4)収量性および品質特性

 育成地での生産力検定では、新植、1回株出し、2回株出しのいずれの栽培型でも「はるのおうぎ」の原料茎重は「農林8号」以上であった(図6)。甘しゃ糖度は「農林8号」と同程度であったことから、可製糖量は「農林8号」を上回り、「農林8号」比では春植えで108〜173%(平均137%)、1回株出しおよび2回株出しで139〜179%(平均153%)と優れた糖生産性を発揮した。鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場および種子島糖業振興会による奨励品種決定調査(現地適応性検定試験を含む)の結果もおおむね同様の傾向であり、可製糖量の「農林8号」比は春植えで115〜183%(平均141%)、1回株出しで125〜199%(平均156%)であった。

 育成地での生産力検定における収量構成要素を見ると、原料茎数は「農林8号」や「農林22号」に比べて明らかに多い(図7)。一茎重は、新植では「農林8号」や「農林22号」に比べて小さいが、株出しでは「農林8号」と同程度であった。このように、「はるのおうぎ」は非常に明確な茎数型を示す品種であり、細茎で一茎重は小さいものの茎数が多く、萌芽性に優れるため特に株出しで茎数が多く、多収となる特性を有している。

 

 

2.栽培上の注意点

 「はるのおうぎ」は萌芽性に極めて優れるため、「農林8号」に比べて株出し回数が増加することが予想される。そのため、一度病すると株にウイルスや病原菌が残存し続ける種類の病害(黒穂病、モザイク病、矮化病など)に対しては厳重な注意が必要である。特に「はるのおうぎ」の黒穂病抵抗性は前述の通り“弱”であり、罹病した場合には複数年にわたり胞子を飛散させる懸念がある。熊毛地域では黒穂病抵抗性が“強”の「農林8号」が長期にわたって収穫面積の大部分を占めていたこともあり、現在では黒穂病の発生は確認されていない。しかし、「はるのおうぎ」の普及後は定期的な種苗更新や適切な採苗圃の設置、植え付け時の苗消毒、圃場巡視および発生確認時の株の抜き取りなど、地域として協調的に黒穂病の発生対策に努めることが極めて重要である。

 そのほかの注意点としては、茎数が非常に多く、脱葉性にも劣ることから手刈り収穫は困難であること、また、収穫後の品質劣化が比較的生じやすいため、収穫後は速やかに製糖工場に搬入することなどが挙げられる。

おわりに

 本稿で紹介した「はるのおうぎ」の品種特性は、「太くて一茎重が大きい」という、いわゆる農家好みの特性とは異なっているかもしれない。しかし、安定的な株出し多収性を追求する中で育成された「はるのおうぎ」が示す新しいサトウキビの姿は、南西諸島のサトウキビが直面している多様な課題解決に貢献し得ると考えられる。耐倒伏性と優れた萌芽性を併せ持つ「はるのおうぎ」は、機械収穫体系への適性が高いと考えられる。また、株出し継続年数の増加を実現し、植え替え頻度を減少させることができれば、大規模経営の省力低コスト化を支援し、収穫面積維持あるいは規模拡大の意欲向上に寄与するであろう。機械植え付け適性も重要であり、現在、関係機関の連携の下で検証を進めているところである。「はるのおうぎ」は生産現場からの極めて強いニーズに応える形で、前例のない短い育成期間で品種登録出願に至ったこともあり、多回株出し時の地力消耗程度や台風時の潮風害抵抗性など,今後、検証が必要な部分も多い。現在、鹿児島県奄美地域や沖縄県各地では奨励品種決定調査を継続しているが、種子島以外での「はるのおうぎ」の生育状況にも注目しながら特性解明を進め、普及拡大につながる情報を発信していきたい。

 以上、本稿では「はるのおうぎ」の来歴や特性などについて概説してきたが、今後の研究の進展とともに、「はるのおうぎ」が多収性を発揮しにくい生産環境についても明らかになっていくと考えられる。そのため、既存品種と適材適地で使い分けることにより、安定生産体系を実現していくことが重要である。九沖農研では、「はるのおうぎ」に続く新品種を開発し、生産者における品種の選択肢を増やすため、継続して育種の高度化に取り組んでいるところである。引き続き、関係諸氏からの忌憚きたんのないご指導をいただければ幸いである。


 謝辞

 「はるのおうぎ」の育成過程では、その一部において農林水産省による「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発(地域バイオマスプロ)」における「1系:国産バイオマス燃料への利用に向けた資源作物の育成と低コスト栽培技術の開発(課題番号1421)」および農研機構生物系特定産業技術研究支援センターによる「イノベーション創出強化研究推進事業」における「生産環境の変化に対応した生産性の高いサトウキビ品種の育成(課題番号26108C)」の助成を受けた。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272



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